刑事事件

迷惑防止条例違反の痴漢で捕まったらどうなる?

日本は世界的にみて治安がいいとされていますが、首都圏での通勤ラッシュの経験がある方なら、満員電車はその例外だと感じられるのではないでしょうか。

警察が検挙した痴漢事件は年間約3,000件にものぼり、東京都では痴漢の6割以上が電車の中や駅構内で発生しています。

一方で、痴漢の濡れ衣を着せられて長期間の身柄拘束を受けた挙句、無罪が言い渡される「痴漢冤罪」が社会問題化し、映画にもなりました。

このコラムでは、万が一、痴漢(迷惑防止条例違反)の容疑で逮捕されてしまった場合の対処法を詳しく解説します。

1.痴漢行為の処罰規定

もともと刑法には、他人に対するわいせつ行為を取り締まる強制わいせつ罪があります。
しかし、比較的軽微な痴漢行為まで強制わいせつ罪で取り締まるのは困難でした。

そこで、都道府県ごとに制定されていた迷惑防止条例に、痴漢行為を処罰する規定を盛り込む動きが広がり、現在ではすべての都道府県の迷惑防止条例にほぼ同じ内容の規定があります。

(1) 迷惑防止条例違反の罪

東京都の迷惑防止条例にあたる「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」では「人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような行為」として「公共の場所や公共の乗り物で、衣服の上からまたは直接身体に触れる行為」を禁止しています(条例5条1項1号)。

違反した場合の罰則は、6月以下の懲役または50万円以下の罰金(8条1項2号)、常習となると1年以下の懲役または100万円以下の罰金です(8条8項)。

警視庁の調べによると、電車や駅構内、商業施設、路上における痴漢行為が検挙総数の8割以上を占めています。

(2) 強制わいせつ罪

刑法で規定される強制わいせつ罪は、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした場合に成立します。
なお、13歳未満の児童に対しては、わいせつな行為をした時点で強制わいせつ罪となってしまいます。

強制わいせつ罪は、人の性的自由を保護するため規定で、同種の犯罪として強制性交等罪など、重大な性犯罪が条文上並んで規定されています。

強制わいせつ罪はかなり重い罪で、罰則は6月以上10年以下の懲役です(刑法176条)。

痴漢行為に対して強制わいせつ罪を適用するためには、わいせつ行為がともすれば強制性交へ発展しかねない危険があったともいえる程度の悪質性が必要といえるでしょう。

一般的には、

  • 着衣の上から身体に触れた場合は迷惑防止条例違反罪
  • 着衣の中に手を差し入れて陰部などに触れたような場合は強制わいせつ罪

に問われる傾向があるといわれています。

なお、痴漢行為はよほど悪質なケースでなければ迷惑防止条例違反として処理されるのがほとんどなので、以下は条例違反に該当する痴漢行為として解説していきます。

2.迷惑防止条例違反(痴漢行為)で逮捕される基準

痴漢事件に関しては、人違いによる誤認逮捕や、刑事裁判での無罪判決が相次いだことから、裁判所や捜査機関も容疑者の身柄拘束に慎重な姿勢をとるようになってきています。

そうはいっても、逮捕される可能性が皆無ということではありません。
逮捕の要否は、主に以下の点が考慮されます。

  • 逃亡の可能性
  • 証拠隠滅の可能性
  • 定まった住居や仕事、同居家族の有無
  • 痴漢行為の悪質性
  • 前科や前歴の有無
  • 痴漢行為を認めているか
  • 被害者や目撃者に働きかけて自己に有利な供述をするよう仕向ける可能性はないか

前科とは刑事裁判で有罪となり刑の言い渡しを受けた履歴、前歴とは犯罪の捜査対象となった履歴(刑事裁判にならなかったものも含む)を意味します。

仕事や家庭があること・厳しい処分にはならないという見通しは、逃亡を思いとどまる事情といえますが、絶対的な基準というわけではありません。

3.逮捕された場合の刑事手続き

(1) 逮捕

痴漢で逮捕されるパターンとしては次の二通りがあります。

  • 痴漢の現場で被害者や周囲の人に取り押さえられ、そのまま警察官に引き渡されるパターン(現行犯逮捕)
  • 現場から逃走し、または警察に連行されたものの一旦帰宅させられ、後日逮捕状を示されて警察署へ連行されるパターン(通常逮捕)

いずれの場合も、逮捕後は警察署の留置場に収容され、集中的な取り調べを受けます。
なお、逮捕されてから最大72時間は弁護士以外の人との面会はできません。

(2) 検察庁へ送致・勾留請求

逮捕されてから48時間以内に検察庁へ事件が送致され、検察官の取り調べを受けます。

検察官は引き続き身柄拘束をする必要があるか、事件が送致されてから24時間以内に判断し、必要があれば裁判所に勾留の請求をします。

勾留とは、裁判官が証拠隠滅や逃亡のおそれがあると認めた場合になされる身柄拘束の処分です。

勾留が認められると最大20日間身柄拘束が続くことになり、私生活にも大きな影響がでることになるでしょう。

検察官が勾留の請求をしなかった場合や、裁判官が勾留の請求を認めなかった場合は、釈放されて在宅で捜査が続けられることになります。

(3) 起訴または不起訴の処分が決まる

捜査を終えて十分な証拠が集まった場合でも、検察官は必ず起訴をするわけではありません。

検察官の裁量として、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」と法律で定められているからです(刑事訴訟法248条)。

一般的に、迷惑防止条例違反にあたる痴漢行為の場合、次の要件を満たしているケースでは不起訴処分とされることも珍しくありません。

  • 痴漢行為がそれほど悪質ではない
  • 被害者と示談ができている(または示談の見込みがある)
  • 前科、前歴がない

不起訴処分になると、刑事手続きはそれで終了となります。

【逮捕されなかった場合の刑事手続き】
逮捕されなかった場合は、普段通りの生活をしながら、捜査機関からの呼び出しに応じて取り調べを受けることになります。
一般的には、数か月程度任意捜査が続き、検察官が起訴または不起訴の処分を行うのを待つことになります。
なお、被害者との接触や電車の利用に関する禁止事項がある場合は、誠実に遵守しなければなりません。禁止事項を守らなかった場合、被害者や目撃者に圧力を加えて証拠を隠滅する可能性があるとみなされ、逮捕されてしまうなどの不利益を被ることもありえます。

4.弁護士によるサポートを早急に受けることをおすすめする理由

痴漢行為について、「出来心でちょっと触ってしまっただけ」などと軽く見てしまうのは考えものです。
場合によっては、20日以上にわたって身柄拘束されることや、刑事裁判になって前科がつく可能性があるからです。

これまで解説してきた刑事手続きの流れの中で、弁護士から受けられるサポートについて解説します。

(1) 逮捕や勾留を回避

裁判所や捜査機関が身柄拘束を慎重に行うようになったとはいっても、逃亡や証拠隠滅の可能性に疑念を抱かれてしまった場合はその限りではありません。

弁護士は、捜査機関が疑念を抱きやすい点を熟知していますので、個々の事情に応じて逃亡や証拠隠滅を防止する方策を捜査機関に提示し、逮捕や勾留を見送るよう働きかけます。

(2) 逮捕・勾留された場合でも早期の釈放を目指す

仮に検察官が勾留の請求をした場合でも、勾留の判断を行う裁判官に対して容疑者の立場や捜査への協力態勢を説明し、勾留の却下を求める意見書を提出します。

また、裁判官が勾留を認めた場合でも、その不当性を指摘して再審査の申し立て(準抗告)を行います。

(3) 不起訴処分へ導く大きな要素となる示談交渉が可能

刑事責任とは別に、痴漢行為により被害者に与えた損害を賠償する民事の問題についても解決する必要があります。

しかし、特に痴漢事件の場合は、被害者の精神的ショックの度合いが大きく、さらに捜査機関は被害者の連絡先を弁護士以外には開示しないため、本人同士の交渉は事実上不可能といえるでしょう。

痴漢事件の弁護経験が豊富な弁護士は、被害者の心情にも配慮した交渉の方法を熟知しているので、示談を成立させることも十分に期待できます。

なお、被害者との間で示談という形で話がまとまると、刑事手続きの各場面において有利に作用します。

場合によっては、逮捕や勾留が見送られる材料となることや、不起訴処分の大きな理由となりますので、できるだけ早期に弁護士を通じた示談交渉を開始するのが得策といえるのです。

5.痴漢で逮捕されてしまったら弁護士へ相談を

以上のように、例え迷惑防止条例違反の痴漢でも、ケースによっては逮捕・勾留がされてしまう可能性があります。

例え逮捕されなくとも、罰金刑となれば前科がつき、今後の生活に影響が出てしまうでしょう。

痴漢事件を起こしてしまったら、早期の釈放を目指し、被害者とスムーズな示談を行うために、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士が早期に弁護活動を行うことで、私生活への影響を最小限に抑えることができるでしょう。

痴漢事件・刑事事件でお困りの方は、ぜひ一度泉総合法律事務所の無料相談をご利用ください。

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