未払賃金立替払制度とは|法人破産手続きの際に知っておきたいこと
泉総合法律事務所の弁護士が法人債務の相談を受けていますと、「先月から従業員に対する給料も払えていないんです」という相談を受けることがあります。
一方、個人債務の相談を受けていると「会社が倒産してしまって給料が入らない。今月の支払いもできなくなって困っている」という相談を受けることもあります。
給料は従業員とその家族にとって生活に不可欠な収入です。給料の支払いが突然止まってしまっては、生活費が足りなくなってしまうという方も少なからずいるはずです。
そのための救済制度として、未払賃金立替払制度が存在しています。
今回は、この未払賃金立替払制度について解説します。
1.未払賃金立替払制度とは
未払賃金立替払制度とは、会社が倒産してしまったことにより賃金未払いのまま退職することになってしまった従業員に対して、未払い賃金の一部を立替払いしてもらえる制度です。
制度を実施している主体は「独立行政法人労働者健康安全機構」となります。
労働者はこの制度を活用すると、最大で未払い賃金の8割を立替払してもらえることになります。
ただし、会社が倒産してしまった全てのケースで未払賃金立替払制度を使えるというわけではなく、一定の要件を満たしていることが必要になります。
また、未払い状態になっている賃金全体が立替払いの対象になるとは限らず、時間的な制約等もあります。
以下、制度の利用条件等を説明します。
2.未払賃金立替払制度の利用条件等
未払賃金立替払制度の利用条件は下記の通りとなります。
①使用者(会社)が1年以上事業活動を行ってきたこと
決断の早い経営者ですと、立ち上げからまだ数ヵ月でも、今後の見通しが厳しい場合には倒産を考える方もいます。
その判断自体は賢明な判断ですが、未払い賃金という点に関しては、立ち上げから1年未満の会社ではこの制度を利用することができません。
倒産した「会社」は必ずしも法人格を取得している必要まではありません。労災保険の適用事業者であれば足ります。
②会社が倒産したこと
要件として広く「倒産」となっています。破産、特別清算、民事再生、会社更生いずれの手続も「倒産」に含まれます。
さらに、「事実上の倒産」の場合にも、制度を活用できます。「事実上の倒産」とは、中小企業について、事業活動を停止し、再開する見込みがなく、賃金支払い能力がない場合を言います。
「事実上の倒産」の場合には労働基準監督署の認定が必要になりますので、まずはその申請を行うところから始まります。
なお、窓口となる労働基準監督署では「事実上の倒産」に関して詳細な案内が行われないケースも見受けられますので注意が必要です。
以上の条件に当てはまる会社で生じた未払い賃金が制度の対象となります。
一方で、制度の適用を受けることができる従業員についても一定の条件が付されています。
③労働基準法上の労働者であること
「労働基準法上の労働者」が対象ですので、契約書面上は請負契約や委任契約となっている場合でも制度の適用を受けられる可能性があります。
一方、会社役員等の場合は、適用の対象外ということになります。
④労働者が、破産等の申立て等あるいは事実上の倒産の認定申請を行った日の6ヵ月前の日から2年の間に退職した者であること
例えば、平成29年6月30日に事実上の倒産の認定申請を行った場合、平成28年12月30日が「6ヵ月前の日」になります。
そのため、平成29年12月30日から平成30年12月9日までに退職した従業員が制度の適用を受けられることになります。
制度の適用を受けるための従業員に関する条件は以上の通りとなります。
時間的な制約もありますので、会社が営業を停めた場合、未払い賃金があるのであれば、直ちに制度の適用に向けた動きに出ることが必要になります。
3.未払賃金立替払制度の対象となる「賃金」とは
会社が従業員に対して支払いをする費目は「基本給」や「通勤交通費」等のように複数の項目があります。この中で、未払賃金立替払制度の適用対象となるのは「未払いの賃金」に限られます。
具体的には「定期賃金」と「退職金」が制度の適用対象となります。賞与や解雇予告手当等は適用の対象外となっています。
定期賃金や退職金であれば過去に遡って全額の未払い分を立替てくれるわけでもありません。従業員が退職した日の6ヵ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している定期賃金と退職金に限られます。
また、立替払いは対象となる未払い賃金の最大で8割となっています(未払い賃金の額が2万円未満の場合も制度の適用を受けられません)。
4.まとめ
未払賃金立替払制度は従業員に賃金を支払えず心を痛めている会社代表者、賃金を受取れず会社倒産に直面してしまった従業員双方にとって好ましい制度です。
しかし、未払賃金立替払制度が広く周知されているかというと、会社代表者の中でもあまり浸透していない制度であるように思われます。
「これまで苦楽を共にしてきた従業員に賃金を支払わないままでは会社を閉じられない」という理由で破産に踏み切れない代表者もいます。
しかし、未払賃金立替払制度を使えば、会社が倒産することによって従業員に未払い賃金の一部が行き渡ることもあるのです。
会社代表者が、会社を閉じるにあたってネックと考えている事柄が、実は専門家に相談すればあっさり解決できるということもあります。
また、賃金立替払を受ける立場である従業員も、制度の適用を受けるためには自ら労働基準監督署に申請しに行かなければならない場合もあります。そういった点からも、早めに専門家に相談することが大切になってきます。
法人破産を検討している経営者の方も、賃金が払われず借金問題に直面している従業員の方も、お早めに法人破産・債務整理に強い泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。借金解決の専門家が解決までしっかりサポート致します。
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