法人の「準自己破産」とは何か?|「自己破産」との違い
「準自己破産」は、手続きの申立人の違いから、「自己」破産に準ずる場合という意味で用いられます。「破産に準ずる」別の手続きがあるわけではありません。
準自己破産が用いられるのは、法人破産の場合です。
法人は自然人と異なり「自分の意思」を持ちません。法人の意思決定は、意思決定機関(株式会社では取締役(会))が行います。
しかし、実際には、法人を自己破産させることについて、取締役の足並みが揃わないこともあり得ます。
そのようなときに利用されるのが「準自己破産」です。
このコラムの目次
1.破産の申立権者と準自己破産
破産の申立ては、債務者本人だけに認められているわけではありません。破産法18条は、債権者にも破産の申立権を認めています。数は少ないですが、実際に債権者が破産申立てをするケースもあります。
よくいわれる「自己破産」とは、破産する債務者本人が自ら破産の申立てをする場合のことをいいます。
法人の破産申立てについては、法人による自己破産のほかに、「一般社団法人・一般財団法人の理事」、「株式会社・相互会社の取締役」、「合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員」および、これらの法人の「清算人」に破産の申立権を認めています(破産法19条)。
破産法19条に定められるこれらの者のことを「準債務者」と呼んでいます。「準自己破産」とは、「準債務者」によって法人の破産が申し立てられた場合のことです。
2.法人が自己破産を申し立てるときの手続き
準自己破産について理解するために、法人が自己破産を申し立てるときの手続きについて確認しておきましょう。ここでは株式会社の場合を例に説明します。
株式会社の意思決定機関は取締役(会)です。取締役会設置会社が自己破産するには、取締役会での決議が必要です。
取締役会で決議するためには、議決に加わることのできる取締役の過半数が取締役会に出席した上で、その過半数の賛成が必要です(会社法369条1項)。
取締役会非設置株式会社の場合には、過半数の取締役の同意が必要です。可否同数は、過半数ではありません。したがって、取締役が4人の場合には3名の賛成が必要です。
出席した取締役が2名だった場合には、2名共が賛成する必要があります。
法人が「自己破産」するためには、自己破産を可決した「取締役会議事録」(もしくは過半数の取締役による「同意書」)を申立時に提出する必要があります。
なお、実務の上では、株式会社の自己破産申立てのときには、「全員一致」の取締役会議事録(もしくは取締役全員の同意書)を提出するのが一般的です(定款上、「全員一致」が必要となる場合も少なくありません)。
自己破産申立ては会社の消滅にかかわる特に重要な事項なので、可能な限り適式に手続きを行う必要があるからです。
3.準自己破産を利用することが考えられる場合
準自己破産による法人破産の申立ケースとしては、次の場合が考えられます。
- 代表取締役が逃亡して行方不明の場合
- 他の取締役と連絡が取れないため取締役会が開催できない場合
- 一部の取締役が、破産申立てに反対している場合
- 代表取締役が死亡してしまった場合
- 債権者の取立てに対応する必要のため会社の意思決定を待てない場合
経営に行き詰まった中小企業の場合には、社長が行方をくらましてしまうこともあり得ます。
また、旧商法時代からの中小の株式会社では、実際の経営には全く関わってない縁故者が名目上の取締役となっている場合もあり、経営破綻時には所在不明ということも珍しくありません。
また、「資産・負債の状況についての認識の相違」や、「経営継続への熱意の違い」、「社内の派閥争い」などを背景に、一部の取締役が自己破産申立てに反対することも考えられます。
以上のように「取締役会を開催できない」、「取締役の足並みが揃わない」ときに、法人を破産させるための方法として「準自己破産」が利用されます。
準自己破産であれば、取締役の1名による申立ても可能だからです。
なお、準自己破産の申立ては、申立てを行う者の名義で行います。しかし、準自己破産の申立てにかかる費用は、申立人の負担ではなく、会社の資産から拠出することが認められています。
4.準自己破産と自己破産との違い
自己破産と準自己破産との違いは、「意思決定機関の構成員の全員一致」による申立てか、「一部の役員のみによる破産申立て」かの違いに過ぎません。
「破産に準ずる」別の手続きがあるわけではないので、裁判所の破産手続き開始決定によって手続きが開始され、裁判所が選任した破産管財人の下で、法人の財産・負債が調査・確定され、財産を換価して、債権者に配当するという、破産手続きの流れは、通常の自己破産(や債権者申立て)の場合と何も変わりません。
しかし、法人の一部の利害関係人による破産申立てであることとの関係で、いくつかの違いが生じます。特に、重要なポイントは、次の2点です。
- 準自己破産申立ての際には、破産原因を疎明する資料の提出が必要
- 自己破産よりも予納金が高額となる可能性がある
(1) 破産原因の疎明資料の提出
準自己破産は、法人の意思決定機関メンバー全員の一致によらない破産の申立てです。
したがって、現実に破産原因(支払不能・債務超過)も、債権者への対応の必要性もないのに、社内の内部紛争の駆け引き手段として、準自己破産が利用される可能性がないとはいえません。
会社は、破産手続き開始決定を受けることで消滅します。それ故に、準自己破産が申し立てられたときには、破産手続きを開始すべきか否かについて、債権者申立ての場合と同様に慎重に判断する必要があります。
そこで、破産法は、準自己破産の場合には、その申立てにおいて破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならないと定めています(破産法19条3項)。
この場合の疎明資料としては、「資産目録(預貯金・売掛金・受取手形小切手・有価証券・保険など)」、「貸借対照表」、「損益計算書」、「税務申告書」、「預金通帳コピー」を提出することが一般的です。
(2) 準自己破産の予納金
法人破産は原則として管財事件となります。そのため、引継予納金(破産管財人報酬)を負担する必要があります。
法人・会社の破産の場合,同時廃止事件とされることはほとんどありません。管財事件として扱われるのが通常です。
東京地方裁判所(本庁・支部)では、いわゆる「少額管財」という「予納金が少額で済む管財事件」の運用を原則としています。
少額管財は、申立代理人弁護士が破産管財人の業務を一定範囲で肩代わりすることが前提なので、弁護士の申立代理人による自己破産の場合に限られるのが原則的な運用方針です。
準自己破産の場合でも、取締役が音信普通であるために同意がとれないだけの場合のように、破産事件の実情が自己破産と変わらない場合であれば、少額管財として取り扱うことができます(大規模破産事件の場合は除きます)。
しかし、準自己破産に至った経緯が、取締役同士の対立にあるようなときには、破産手続きに必要な協力を破産申立てに反対する取締役から得られないことも予想されます。
破産手続きが円滑に進行できない場合には、少額管財ではなく、特定管財事件として取り扱われることもあります。特定管財事件となった場合の予納金は、最低70万円必要です(負債額に応じて増額されます)。
予納金の金額は、裁判所・事案ごとによって異なりますので、直接、弁護士にお尋ねください。
5.まとめ
会社の経営が破綻した際には、会社の意思決定機関が機能していないことも少なくありません。
準自己破産を利用すれば、そのような場合でも取締役の1名による申立てで会社を整理することができます。
しかし、法人を破産させることは、法人の消滅につながる重大な決断です。予期せぬ不要なトラブルを生じさせないためにも、取締役の同意を得られる可能性があるうちは、通常の自己破産の道を模索すべきと思われます。
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