弁護士費用を立て替えてくれる!法テラスを利用した自己破産手続
自己破産は、借金全てを原則として無くすことのできる最も経済的メリットのある債務整理手続です。
そのため、収入に乏しい、または、収入が無いために、借金の返済を負担することがほとんどできない人でも利用できます。
しかし、そのような方の中には、自己破産をするための弁護士費用や、自己破産手続のための費用を支払えるだけの現金が手元にないという方もいらっしゃるでしょう。
そんなときに便利なサービスを提供している組織が「法テラス」です。
法テラスは、自己破産などの債務整理手続を比較的安く、しかも、一時的に各種費用を立替えてくれるなどの援助をしています。
ここでは、法テラスを利用した自己破産手続について説明します。
なお、泉総合法律事務所では、法テラスについて取り扱いをしておりませんので、ご了承ください。
このコラムの目次
1.自己破産の概要と手続
(1) 自己破産の概要
自己破産は、借金を支払うことが不可能となった債務者が、裁判所に申立をして、財産のほとんどを処分されることを代償に、原則として全ての借金を完全になくしてもらう債務整理手続です。
自己破産の手続により借金が無くなることを免責と言い、その決定を免責許可決定と言います。
(2) 自己破産における二つの手続
自己破産には、管財事件と同時廃止という二つの手続があり、裁判所により振分けられます。
管財事件では、費用の負担が大きくなってしまいます。
①管財事件
管財事件とは、裁判所が破産管財人を選任し、手続上必要となる調査や処理を行わせる自己破産手続です。
破産管財人は、債務者財産の調査・管理・配当や、免責を認めるには不適切な債務者の事情(免責不許可事由と言います)の調査を行います。
管財事件では、破産管財人の報酬予納金を20~50万円程度(裁判所や債務者の事情により上下します)納める必要があります。
しかも、多くの裁判所では、申立の時に一括で納めることとされているため、その負担が特に重くなりがちです。
②同時廃止
債務者に財産も免責不許可事由もない場合に、破産管財人を選任しないで自己破産することが出来る手続も用意されています。それが同時廃止です。
破産管財人が選任されないので、報酬予納金は不要です。また、手続が簡単なので弁護士費用も管財事件より比較的安くなります。
2.法テラスを利用するメリット
法テラスとは政府により設立された、法律トラブル解決を援助するための独立行政法人です。
法律に関する情報提供や犯罪被害者支援などのほか、自己破産など債務整理を望む人に対する援助もしています。
法テラスを利用するメリットを説明します。
(1) 無料法律相談
まず、無料で法律相談をしてもらうことが出来ます。
一般の法律事務所では、無料相談をしてくれる事務所も現れてきましたが、まだ有料相談を原則とする事務所が多くあるため、現状確認のためにも重要なサービスです。
(2) 弁護士の紹介
また、法テラスは自己破産手続を代理する弁護士を紹介してくれます。
スタッフ弁護士と言って法テラスに所属する弁護士や、契約弁護士と言って外部の弁護士と、債務者との間を仲介するサービスです。
債務者が弁護士を選ぶことは出来ませんが、このサービスを用いると弁護士費用を安く済ませることが出来るというメリットがあります。
(3) 弁護士費用の立替払い
さらに、その費用も支払うことができない場合には、ひとまず法テラスが費用を立替払いしてくれる場合もあります。
そのため、手元にまとまった現金がない人でも、自己破産の手続がしやすくなります。
3.法テラスを利用する際の注意点
(1) 管財人の報酬予納金についての援助制度はない
管財事件で重い負担となる報酬予納金については、弁護士費用と違って援助がされることはありません。
弁護士が受任通知を債権者に送付すると、取立が止まりますから、申立までに返済に充てていた現金を積み立てる点は、法テラスを利用しても変わりません。
(2) 原則として立替払いされた弁護士費用は返済する必要がある
自己破産手続により法テラスが立替金を請求出来なくなることはありません。原則3年以内に、月々5,000円もしくは1万円ずつ返済をすることになります。
例外的に、後に失職など特別な事情が生じた場合に返済が猶予されます。生活保護を受けている場合には、返済そのものをしないで済むこともあります。
4.法テラスを利用するための条件
法テラスは誰でも利用できるわけではありません。それぞれのサービスを受けるには、以下の条件を満たす必要があります。
(1) 無料法律相談のための条件
法テラスで無料の法律相談を受けることができる方は以下の条件を満たした方です。
①不適切な目的がないこと
法テラスは政府が設置した公的な機関ですから、不当な目的を持つ人に手を貸すことはできません。
一般的には、報復目的や、権利の乱用としか言えないような無理な裁判の相談が問題になります。
②収入・資産が一定額以下であること
ア.収入
債務者のボーナスを含む手取り月収について、例えば、世帯人数が1人ならば原則18万2,000円以下、3人ならば原則27万6,100円以下である必要があります。
家族がいる場合には、債務者の配偶者の手取り月収や、同居している家族が家計にいる金額も追加されます。
なお、家賃や住宅ローンを負担している場合や、大都市圏に住んでいる場合は、基準額が数万円高くなり、条件が緩くなります。
イ.資産
原則として、債務者の現金や預貯金の合計額が、例えば世帯人数が1人ならば180万円以下、3人ならば270万以下である必要があります。
なお、配偶者の現金・預貯金も合算されます。
(2) 弁護士費用立替のための条件
無料相談のために必要となる上記の条件に加え、資産の条件が厳格化されます。
無料相談と異なり、現金・預貯金のみならず、自宅以外の不動産や株などの財産の合計額が基準額以下でなければなりません。
①免責を許可してもらえる見込みがないとは言えないこと
免責不許可理由があることが明らかで、免責されない恐れが高い場合に問題になります。
例えば、7年以内に自己破産が免責されていたことがあるという免責不許可事由は、その事実があったと明確に言えますから、法テラスに弁護士費用を立替てもらえる可能性は少ないでしょう。
②審査期間がある
上記の利用条件を債務者が満たしているかについて、サービスの前に審査があります。
審査期間は2~3週間、長い場合は1ヶ月ほどです。
5.特に法テラスを利用する意義があるケース
法テラスによる立替払いを利用すれば、予納金は別として弁護士費用を立替てもらえます。
そのため、特に費用負担が大きい管財事件では、法テラスを利用する意義があります。
法テラスは資産・収入が少なく、免責される人しか利用できないのだから、債務者財産の配当や免責不許可事由の調査を行う管財事件で手続を行う人は利用することがないのでは?と思う方もいるかもしれません。
しかし、例えば、以下のような場合には、管財事件で手続をする人でも、法テラスを利用できます。
(1) 回収すべき債務者の財産がある場合
自己破産の申立てのときに債務者が現実に財産を現金や物として持っていなくとも、誰かにそれらを請求できる場合です。
例えば、過払い金や自己破産前の取引相手への請求権があるときがあげられます。
破産管財人は、債務者に代わって貸金業者や取引相手からそれらの財産を回収できますので、管財事件になります。
(2) 一定の問題がある免責不許可事由が疑われる場合
免責不許可事由があるとき、ほとんどの場合、その内容は「グレー」なものです。
そのため、免責不許可事由があったとしても、一般的には、管財事件の手続の中で破産管財人が念のため調査したうえ、裁判所が総合的な判断に基づいて免責をします(これを裁量免責といいます。)
このような場合、免責不許可事由があるために管財事件となるものの、法テラスの利用は可能です。
(3) 債務者の借金が大きい場合
借金の額が大きいと、裁判所は、浪費などの免責不許可事由があるのではと疑いを持ちます。
そのため、免責不許可事由がないことが明らかな場合を除き、借金が一定額(裁判所によりますが、500万円前後が目安です)以上だと、裁判所は管財事件で自己破産手続を進めようと考えることが多いと言われています。
6.まとめ
自己破産による債務整理手続は、借金を帳消しにできるため、減額しかできない他の債務整理によっても問題が解決できないような収入・資産に乏しい人にとり、非常にメリットのある手続です。
しかし、場合によっては、債権者に配当できる財産がないのに、他の事情により管財事件で手続をすることになり、多額の手続費用を工面できず、途方に暮れてしまう場合もあります。
そんな時に有用なのが法テラスです。
法テラスを用いれば、弁護士費用の一時的な立替払いなどにより、手続に関する費用の負担を大きく軽減することが出来るのです。
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