再生計画案を作成するにあたっての注意点
個人再生は,裁判所の関与の元、減額された債務を原則として3年間にわたり分割払いするという手続です。
任意整理をしても借金の支払いが出来ないという場合、自己破産をすれば借金をゼロにすることができますが、自己破産には高価な財産が処分されたり、ローン付き住宅が差し押さえられてしまったり、資格や職を失うなどのリスクがあります。
個人再生は、それらのリスクを回避して、債務の減額をすることができます。
個人再生手続は、債務を分割払いすることになりますから、裁判所に分割払いができるということを認めてもらう必要があります。
そのために、分割払いの計画である再生計画の案を裁判所に提出することとなります。
このコラムでは、その再生計画案を作成するにあたって注意しなければならないことを説明します。
1.再生計画案とは
再生計画案は、借金の減額や分割払いの方法などを定めた書類を作成し、期日までに裁判所へ提出する債務者に課された義務の一つです。
個人再生では、破産と異なり債務は帳消しとならず分割払いになるため、債務の免除率や分割の内容、後述する住宅ローン特則など特殊な規定があることから、個別具体的な再生計画が必要になります。
そして、再生計画案を裁判所が認可して初めて、借金の減額及び分割払いが開始されます。逆に言えば、不適切な再生計画案であるとして裁判所が認可しなかった場合には、個人再生手続は打ち切りとなり、借金の減額はされずに終わってしまいます。
なお、裁判所が再生計画を認可しない場合は、下記のとおりです
- 再生計画案が法律に違反していて、しかも、その違反を補正できない場合
- 再生計画案に記載された分割払いを継続できる見込みがないとき
- 後述する再生計画案に関する債権者の決議が、債権者への詐欺脅迫など不正な方法によって成立したとき
- 再生計画案において債権者に支払うこととなっている金銭の総額が、債務者が破産することを仮定した場合に債権者に分配される金銭の総額を下回っているとき
再生計画案を上記に気を付けて作成しなければならないことは言うまでもありませんが、ほかにも、気を付けなければならない点があります。
2.再生計画案の提出期限
再生計画案には裁判所が決定する提出期限があります。そして、提出期限までに裁判所に再生計画案を提出できなかった場合には、計画の内容が妥当かどうかの判断に移るまでもなく、再生手続が廃止、すなわち終了させられてしまいます。
この提出期限は、再生手続き開始決定と同時に決められます。具体的な期限としては、例えば東京地方裁判所であれば、たいていの場合、債務者が個人再生を開始決定時から14週間後の日が期限となります。
それまでに、再生計画案の作成を急ぐわけですが、住宅ローン債権者との協議が難航し、再生計画案を期限までに作成・提出できないということもあり得ます。
その様な場合には、再生計画案の提出期間伸長の申立てをすることができます。
もっとも、当然ながら、単に計画作成を怠っていたとか、期限を忘れていたという理由では期限の延長は許されませんのでご注意ください。
3.再生債権者による再生計画案に関する決議
個人再生では、破産のように借金自体がなくなるというわけではなくとも、大幅な借金の減額がされることが通常です。
そのため、債権者は自らの利益を守るために、再生手続において再生債権者として手続に関与することとなります。
特に重要といえるのが、債権者による再生計画案に関する決議です。
個人再生手続には二つの類型があるのですが、そのうちの一つ、小規模個人再生では、債権者の頭数の過半数にあたる債権者たち、もしくは、債権総額の過半数を持つ債権者たちが、債務者が裁判所に提出した再生計画案に反対した場合には、手続が廃止されてしまいます。
要するに、再生計画案、ひいては個人再生の成否を、債権者に握られてしまいかねないのです。
もっとも、もう一つの類型である給与所得者等再生によれば、話は別です。
給与所得者等再生は、小規模個人再生に比べ利用できる条件が厳しく減額幅も小さくなりがちですが、その手続では、そもそも債権者による再生計画案に関する決議がありません。
ただ、裁判所が債権者の意見を聞くだけです。そして、裁判所は債権者の意見に縛られることはありません。
ですから、債権者の大多数が給与所得者等再生手続に反対していたとしても、裁判所がよしとすれば、再生計画案は認可されることになります。
4.住宅ローン特則がある場合
個人再生の最大の意義は、住宅ローン特則にあるといっても過言ではないでしょう。住宅ローン特則制度を利用した個人再生では、破産では処分されてしまう住宅ローン付きの居宅を維持することが可能です。
住宅ローン特則制度を利用するには、再生計画案にその旨の定めをしなければなりません。
逆に、住宅ローン特則を再生計画案に定めるには、住宅ローン以外の担保権が対象住宅に設定されていないことなどの、住宅ローン特則制度を利用するための他の条件を満たしている場合でなければなりません。
また、申立の段階で提出する債権者一覧表に、再生計画案に住宅ローン特則を定める意思があると、あらかじめ記載しておくことも必要となります。
そして、出来上がった再生計画案が認可されるかも別に問題となります。
住宅ローン特則制度を利用する場合固有のものとして、債務者が住宅の所有権、または住宅が建つ土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれないこと、という条件が、通常の再生手続での条件に追加されます。
最後に忘れてはならないのは、再生計画が遂行可能であるという通常の再生手続と共通の再生計画案の認可の条件です。
住宅ローンは一切減額されませんから、住宅ローンの支払いと再生計画案に基づく支払いが数年スパンで平行することとなります。ですから、遂行が現実的な、しっかりとした支払計画を立てなければいけません。
5.再生計画案の作成は一人で無理せず弁護士へ相談を
再生計画案は、裁判所や裁判所に代わって債務者に関し調査監督する個人再生委員ではなく、借金や家計収支、資産状況をもっともよく知るであろう債務者、すなわち個人再生の申立人が作成することとなっています。
しかし、その記載項目は細部にわたり、記載内容を正確なものとすることは、一般の方には非常に難しいといえます。
ですから、個人再生をお考えの方は、一人で抱え込もうとせず、個人再生の経験が豊富な泉総合法律事務所の弁護士へのご相談・ご依頼されることをお勧めします。
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