軽い事故は物損事故として処理されがちです。人身事故に切り替えを!
交通事故被害に遭ったとき、軽い事故だった場合に問題となるのが「物損・人身」のどちらにするべきかという悩みです。
実際、平成29年度は47万2165件の事故がありましたが、このうち軽傷は43万3595件と報告されています。交通事故と聞くと大きな事故を想像しがちですが、ほとんどの事件は軽傷なのです。
軽傷事故では、打撲や軽いむち打ち症などが多く、被害者も「この程度なら病院に行かなくてもいいか」と考え、物損事故として処理してしまうことが多々あります。
しかし、少しでも痛みや違和感を感じたときは、人身事故を選択することをおすすめします。
物損事故では、のちに治療が必要とわかった場合に、人身事故として手続きした場合に比べ大きく損をすることになるためです。
今回は、物損事故と人身事故の違いや、人身事故への切り替え方法を解説します。
このコラムの目次
1.物損事故と人身事故の違い
そもそも、物損事故と人身事故は何が異なるのか?
まずは、物損と人身の概要からご説明します。それぞれの手続きのどこが異なるのかを見てきましょう。
(1) 物損事故、人身事故とは
皆さんは、そもそも物損事故と人身事故がどのような事故であるかをご存知でしょうか。
①物損事故
まず、物損事故とは、人の死傷被害がなく、車やその他器物の損壊がある事故のことを指します。つまり、物の破損のみの交通事故ということです。
衝突で車が破損した場合はもちろん、ガードレールなど公共物を壊した場合でも同様です。
私有地にある物を壊してしまった場合も、物損として扱われます。
物損として処理されないケースがあるとするならば、それは故意でぶつかった・車で物を壊したというケースです。
最近問題となっている「あおり運転」による事故は、故意がある物損事故としてカウントできる事例もあります。故意がある場合は、器物損壊や暴行罪で逮捕されることも考えられます。
②人身事故
では、人身事故はどのような事故なのでしょうか。
人身事故とは、交通事故で人に対して死傷などの被害があった事故のことです。
骨折をした、事故の衝撃で意識不明になったなど重症事故はもちろんですが、「少し首が痛い」と感じただけでも人身扱いになるのが基本です。
交通事故に巻き込まれたら、警察に連絡をします。これは、物損でも人身でも同じであり、道交法上も必ず事故報告をしなければいけません。
警察がきたら、当事者同士が平気な顔をしていても、必ず「どこか痛みはありませんか?」という質問を行います。ここで、「少し体が痛い」と発言すれば、「じゃあ人身ですね」といわれ、すぐに現場検証が開始されます。
もっとも、これは被害者が体の痛み等を訴えた場合に限定されます。言わなければ、物損処理です。
ちなみに、自損事故という言葉もあります。自損事故は、相手方のいない事故のことです。
ガードレールにぶつかったケースなどが代表例で、これは物損事故に含まれます。
(2) 物損事故はほとんどの法的責任が問われない
では、それぞれの取り扱いは、具体的に何が異なるのでしょうか。
物損と人身の違いは、行政上・刑事上・民事上それぞれの法的観点から違いがあります。
行政上の観点から見てみると、人身として処理された場合には、道路交通法上点数が加算されたり、罰金、免停などの罰を受けたりすることがあります。
しかし、物損の場合は飲酒運転などの法規違反がない場合は、罰則を受けることはありません。
刑事上はどうでしょうか。軽い事故であったとしても人身として扱われた場合は、業務上過失致死罪等で取り扱われます。検事による起訴・不起訴の処分を待って、起訴されると確定した場合には、刑事裁判が行われます。
物損の場合は、そもそも刑事事件として扱われることはありません。
民事上は、人身事故の場合、治療費や慰謝料を請求することができます。
しかし、物損として扱うと、怪我がない前提のため、慰謝料や治療費は原則として請求できません。
これらの法的責任以外でも、自賠責保険上の扱いも変わります。物損事故では自賠責保険は保障対象外となり、保険金はおりません。
以上が、物損・人身の違いとなります。
少しでも痛みがあるケースで、加害者に対し何らかの責任を追及したい場合は人身として申告するのが賢明です。
2.「物損事故にしてほしい」はなぜ起きる?
次に、加害者が物損事故扱いをお願いしてくる事例をご紹介します。物損処理を望むその理由についてもご説明します。
(1) 実際にある!加害者が物損扱いをお願いする事例
「少し痛みはあるが病院に行くのは面倒…物損扱いにしよう」
身体を負傷している可能性があるのに、被害者が物損扱いにする理由としては「忙しい」、「面倒」、「たいした事故ではない」など理由があると思います。
もっとも、被害者側の事情だけでなく、加害者側の事情が影響することもあるのです。
さらにいうと、「物損扱いにしてほしい」と被害者にお願いする事例も少なくありません。
実際によくある加害者の言い分は、以下のようなものです。
- 「修理費用や治療費は払います。なので、物損事故として申請してくれませんか?」
- 「警察を呼ばれると困るんです。お金は支払います」
- 「保険会社に物損事故として報告してくれませんか?」
また、加害者だけでなく、加害者が加入する任意保険会社の担当者も以下のように物損依頼をしてくることがあります。
- 「治療費は支払いますので、このまま物損扱いにしていただけますか?」
- 「人身事故への切り替えは面倒ですよ」
- 「人身事故になると手続きが大変ですので、被害者様のケースのような事例では物損処理がおすすめです」
このように、「治療費は払う」と言って、物損扱いにしようとするケースがあるのです。
(2) なぜ物損処理をしたがるのか
では、なぜ加害者側は物損処理を行いたいのでしょうか。
被害者にお願いするということは、それほどこみ入った個人的な事情があるのかもしれません。しかし、一般的な理由としては以下のようなものが考えられます。
- 免許の点数加算が気になる
- 刑事罰・行政罰を受けたくない
- ゴールドではなくなってしまう
- 保険料が上がるのを避けたい
- 損害賠償全体の金額を低くしたい
- 早く事故問題を終わらせたい
タクシーやトラック運転手などは、行政上の罰則として点数が加算されると死活問題です。
あともう少しで免停となってしまうケースなどでは、物損扱いにすることで刑事罰・行政罰を受けずに済むため、問題を解決することができます。
また、個人の場合でも、ゴールド免許ではなくなると更新頻度が増え、面倒な手間が増えます。保険料も値上がりするので避けたい理由があるのでしょう。
保険会社は、損害賠償の額を低く抑えたいはずです。物損なら慰謝料や後遺障害の手続きもせずに済むため、支払う金額は少なくなります。
また、物損の方が人身事故のよりも処理が早く、数週間で終わることもあるため、早く事故問題を解決したい加害者の気持ちにも叶います。
これ以外にも、物損の場合は立証責任が被害者にある点も加害者にとっては利点です。人身なら、立証責任が転換し、加害者自身が自分に過失がなかったことを証明しなければいけないのです。
このように、加害者や保険会社が物損扱いを希望するのにはさまざまな理由があります。
しかし、被害者にとっては、⑴法的責任を追及できない、⑵慰謝料が発生しない、⑶損害賠償額が低くなる、などのデメリットもつきまといます。慎重に判断しましょう。
3.物損から人身への切り替え方法を
次に、物損事故から人身事故への切り替え方法をご説明します。また、物損事故のまま治療費を請求する方法もご紹介します。
(1) 人身事故に切り替える方法
「物損として処理したけれど、やっぱり人身事故にしたい」
このようなお気持ちがある場合は、すぐに手続きを行うようにしましょう。できれば、事故から10日以内には手続きを済ませたいところです。
というのも、人身事故に切り替える場合は、症状や怪我が事故によるものであると証明しなければいけないからです。
また、実況見分を行うことになりますが、現場の状況は日々刻々と変わっていきます。証拠は少なくなってくるため、できるだけ早く切り替え手続きを行うようにしてください。
人身事故への切り替え手続きは以下の手順で行います。
①病院で診断書をもらう
病院で痛みや症状がどのような状態なのかを診てもらわなければいけません体にある違和感や痛みなど、些細なことでも報告するようにしてください。
そして、肝心なことは「交通事故に遭った」と伝えることです。
交通事故の当日から痛みがあるなど、当該事故との因果関係を自分で説明するようにしましょう。
また、医師には診断書をかいてもらい、事故による症状であることを記載してもらいます。
②警察署に診断書を提出する
病院で診断書をもらったら、管轄の警察署にいき、「人身事故に切り替えたい」旨を伝えます。
そうすると、書くべき書類や行くべき課などの説明をうけますので、指示に従いましょう。
人身事故切り替えのための書類を提出し、受け入れられたらOKです。警察署へ行く際は、先に電話で予約をしておくと良いでしょう。
③後日、実況見分を行う
別の日に実況見分が行われます。通常は加害者も立ち会いの元となりますが、予定が合わない場合は別に行われることもあります。
この時、事故の状況をしっかりと説明しましょう。事故当日の写真などがある場合は、それを見せて伝えても良いです。
先に言うべき内容をメモしておくといい忘れを防げます。
以上が、切り替え方法となります。人身事故への切り替えは、「すぐに始めることが重要」ということを心に留めておいてください。
(2) 物損事故で賠償金を請求したい時
「物損処理のまま治療費のみを請求したい」という方もいらっしゃるでしょう。
結論からいうと、物損処理のまま治療費や慰謝料などの損害賠償を請求することは難しいです。
物損事故として取り扱うと、警察も簡単な現場検証のみで、実況見分は行われません。そのため、事故による怪我であるとの立証が困難となってしまうためです。
したがって、治療費等を請求したい場合は、人身事故への切り替えを行うようにしてください。
もっとも、時間が経過してしまうと人身事故の切り替えを警察が認めてくれないケースもあります。このような場合は、人身事故証明書入手不能理由書を加害者側の任意保険会社に提出するという方法もあります。
この手続きを行うと、結果的に物損事故のまま治療費を受けられることになります。
せめて治療費だけでも請求したいという場合は、加害者側の任意保険会社に「人身事故証明書入手不能理由書」を申請したい旨をお伝えください。
4.治療費請求にお悩みの方は泉総合法律事務所へ
「物損か人身か」で取り扱いを迷っている方は、人身で申請されることをおすすめします。少しでも痛みがあったら、人身事故で対応するのが一般的です。
「物損で処理した方が楽」と言われるかもしれませんが、後日トラブルになって損をするのは被害者です。切り替える場合は、早めに動き出すようにしましょう。
もっとも、「1人ではどうしたらいいかわからない」という方もいらっしゃると思います。「物損処理にしたけれど治療費を請求したい」「人身に切り替えたい」など、交通事故に関してお悩みを抱えている場合は、専門家である弁護士にご依頼ください。
泉総合法律事務所は、さまざまな交通事故案件を解決に導いています。実績豊富な弁護士が初回無料でご相談を承っておりますので、まずはお気軽にご連絡ください。
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