自己破産に対するイメージと噂~その噂は本当か、誤解なのか~
債務整理の主な手法は、任意整理、自己破産、個人再生の3つです。
その中で、借金をゼロにすることができるという点において、最も強力な手段と言われる自己破産。
このように強力な効果を持つ手続であるにもかかわらず、債務整理のご相談にいらっしゃった方の中には、私が自己破産をご提案すると、自己破産という言葉に対してビックリした表情を浮かべる方も少なくありません。
もちろん、私が自己破産のメリットとデメリットを丁寧にご説明すると、ほとんどの方は納得して自己破産を選択されます。
わが国では、特に年配の方々の間で、未だに「自己破産=悪」というイメージが根強いという印象を受けます。
しかし、イギリスの圧政から逃れようとした移民によって建国され、西部を開拓していくフロンティア・スピリッツを尊ぶ米国では、自己破産は再チャレンジの一歩として、むしろ前向きなイメージがあるように感じます。
このような,わが国における悪いイメージのために、この強力な自己破産という手続に躊躇するのは、いかにももったいないと思います。
このコラムでは、自己破産に関する噂に対し、それは真実か誤解なのか、解説していきます。
このコラムの目次
1.自己破産に対する数々の噂
(1) 全ての財産を失う上に、将来も貯金などができない
誤解です。全ての財産を失うことはありません。
しかし、一定の財産を失うことは事実です。具体的には、99万円を超える現金、不動産、20万円を超える預貯金、保険解約返戻金、自動車等が「破産財団」を構成するものとして、換価等された上で債権者に分配されます。
逆の言い方をすれば、高額な財産のみ失う、ということになります。このほか、例えば生活に必要な家財道具などを失うことはありません。
将来的にも貯金などができない、というのも誤解です。
上記のように換価等される財産の基準時は、「破産手続の開始決定時」です。
つまり、開始後に獲得した財産は、それが勤労によるものであれ、宝くじの当選金であれ、換価等されることはなく、自己の財産です。
よって、今後も資産を所有できないというのは、誤りです。
(2) 年金や生活保護を受け取ることができなくなる
誤解です。
年金や生活保護を受け取ることができなくなるといったことは、ありません。
(3) アパートを出ていかなければならない
誤解です。家賃の滞納がない限り、自己破産したというだけでは賃貸借契約は解除されません。
仮に賃貸借契約書に「賃貸人は、賃借人が破産したときは賃貸借契約を解除できる」といった文言がある場合でも、同様です。
なぜなら、実務上、このような契約書の文言は、無効とされているためです。
なお、家賃の滞納がある場合には、賃料不払いを理由とする解除は依然、可能ですので、数か月にわたる滞納があるような場合は要注意です。
ちなみに、転居等で新しく賃貸借契約を締結する場合には、ブラックリストの影響で、機関保証を付けることが難しくなる可能性はありますので、留意が必要です。
(4) 家族に迷惑がかかる
自己破産は個人の手続ですので、破産者の家族であるというだけで影響を受けることはありません。子供の進学、就職、結婚などに影響することもありません。
もっとも、その家族が借金の保証人である場合には、当然ながら自己破産による影響を受けます。
また、自己破産の結果として、自宅や車を換価されてしまう場合には、家族が事実上の影響を受けてしまうことはあります。
(5) 勤務先などに通告される
誤解です。勤務先や知人等に裁判所や破産管財人などから通知が行くことはありません。
もっとも、自己破産をすると官報に氏名住所が掲載されますが、官報を読む人は滅多にいません。
したがって、ご自身から積極的に話をしない限り、他人に知られるリスクはほぼないと考えてよいでしょう。
なお、勤務先からの借入金がある場合、その勤務先には債権者の一人として通知がなされ、それによって自己破産の事実が知れてしまいますので、要注意です。
(6) 戸籍や住民票に自己破産したことが掲載される
誤解です。
戸籍や住民票に記載されることはありません。特に結婚を予定している方はこの点を懸念されるようですが、心配することはありません。
(7) 選挙権がなくなる
誤解です。
自己破産しても選挙権や被選挙権がなくなるということはありません。
(8) 携帯電話が使えなくなる
誤解です。滞納がなければ、携帯電話の利用に影響はありません。
もっとも、ブラックリストに掲載されることの影響で、一定期間の間は、新規で本体を分割払いで購入することは難しくなるでしょう。
これは、家や車をローンで購入する場合も同様です。
(9) 引っ越しや海外旅行ができない
誤解です。
もっとも、破産手続の間の数か月間は、一定程度、引っ越しや旅行は制限されます。しかし、破産手続が終わってしまえば、制限なしです。
3.まとめ
自己破産については一部の方々には未だ悪いイメージが残っているため、自己破産含め債務整理に躊躇する方も多いのではないでしょうか。
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